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ロンドンとお台場を繋ぐもの

ようやく沈静化しつつあるイギリスの大暴動だが、一連の暴動を見て思ったのは、決して対岸の火事では無いということだ。
若者たち、大義なき暴動
「異なる(背景の)若者らが同じ行動を取るという新たな難題に直面している」。キャメロン英首相は11日の臨時議会で、事態を「新たなタイプの暴動」と位置づけた。今回の暴動は、英国が過去に経験した政治的不満や人種差別などを背景にした暴動とは異なり、動機や目的が不明瞭な「大義なき暴動」とも呼ばれている。
2011年8月14日(毎日新聞)
イギリスという国は、日本が想像する以上に階級意識が強烈に強い国で、上流階級と労働者階級とでは、まったく別の社会意識を持っており、彼等が日常的に交流を持つような事はほとんどない。
極端な例を言えば、オックスフォード大学の学生と、大学の地元住民が会話を交わすことすら、まずあり得ない話なのである。

そのような固定化された階級社会を背景に、労働者階級の若者を中心とする貧困層の不満が爆発するような暴動が、これまでにもイギリスでは度々起きてきた。
ところが、今回の暴動には、上流階級や白人の若者も多く含まれており、これまでとは性質の異なる暴動に、イギリス政府もその対応に苦慮している様子が伺える。

思うに、今回の暴動は、階級社会に対する軋轢といった単純な動機ではなく、それぞれに異なった社会的ストレスを抱えている若者が、SNSを介して繋がっていき、やがてひとつのイベントとして暴動が目的化したのではないかと考えられる。
特に象徴的だったのが、ソニーの倉庫を火災に至らしめた暴動だ。
被害に遭った倉庫に置かれていたのは、むしろイギリスの若者が好むような音楽CDやDVDがその大半で、特にソニーに流通を委託していたインディーズレーベルが相当な損害を被ったと聞く。
この事からも、もはや目的と手段になんら合理性を持ち合わせていない、主張無き暴動だったということが見て取れる。

つまりは、失業、貧困、階級格差、世代間格差、人種差別等々、それこそ単なる若気の至りまで、それぞれ異なる動機がネット社会を介してひとつに繋がり、暴動という形でアウトプットされたに過ぎないのだ。
ただし、当ブログでは、それらの暴動を引き起こす動機に関して、二つの要因に大別できるのではないかと考える。

ひとつは、過去の暴動でも主な要因とされた、階級社会がもたらす労働者階級の若者の不満だ。
かつては、サッカーのフーリガンとして、その不満を発散していたものが、政府のフーリガン対策の強化によって、発散場所を失い、ガスが溜まっていたとも考えられる。
更には、行き場を失った一部のフーリガン達がストリートギャングとなって、より過激化したとも考えられるのではないだろうか。

そして、もうひとつの要因は、世代間格差によって生じた、若い世代全体に漂う閉塞感だ。
これは、不況によって世代間の所得差が固定化されてきたことで、若者の将来の展望が見えなくなっていることに起因しているのではないかと当ブログでは考えている。
世界的不況の中、大人世代が既得権(例えば地位や給与など)を守ろうとすることで、若者世代にその歪が襲い掛かっている構図だ。
上流階級の若者とて、将来が約束されているとは言い難いイギリスの経済や社会の状況がそこにはある。
これは、先進国で軒並み見られる傾向でもあり、若年層における失業率の増加がそれを表していると言えそうだ。
参考に若年層の国別の失業率を一覧にしてみたのでご覧いただきたい。
なんと、ほとんどの国で、全体の失業率に対して、若年層は実に2倍の失業率となっているのだ。
彼等が、将来像を描けないままに、社会に対して不満を抱くのも頷ける。
尚、失業率の集計年度は、主に2010年度データを使用しているが、データ収集の都合によって多少前後している国もあるので、何卒、ご容赦願いたい。

失業率.jpg

その他、若年層の失業に関して、言及している記事もあるので、併せてお読みいただきたい。

若者の高失業率が世界にもたらす災い
2011年8月15日(英フィナンシャル・タイムズ/日本経済新聞)

高失業率に悩む欧州の若者
2011年8月3日(ウォール・ストリート・ジャーナル)

いずれにしろ、今回の暴動は、これまで階級社会によって保たれてきたイギリス社会の秩序を、若者を中心とするネット社会が凌駕したことを意味しており、若者に蔓延する社会に対する不満が新たな形となって現れた格好だ。
更に言えば、ヨーロッパ各国も、同じような火種を抱えており、いつ飛び火してもおかしくない状況であると当ブログでは考える。
無論、暴動そのものを肯定するつもりは毛頭無いが、SNSがもたらしたという意味では、中東のジャスミン革命と同様に新しい形の社会現象と言えよう。
こうした硬直化した社会構造を、ネット社会が揺るがす動きは、事の善悪を問わず、ますます世界に広がっていくものと考えられる。

さて、翻って日本の場合はどうなのか。
冒頭に対岸の火事ではないと述べたように、日本もまた、同じような火種を抱えている当事国であると考えられる。
世代間における格差の固定化、若年層における失業率の増加云々、欧米と比べれば、悲観的な数字ではないにしろ、着実に同じ傾向を歩んでいるのは、前出の失業率のデータを見ての通りだ。
ただし、日本でイギリスのような暴動が起きるのか?と問われれば、その答えは、やや早計である、ということになるだろう。
とはいえ、その一端を現すような現象は、日本国内でも見受けられるようになってきており、事態を注意深く見ていく必要はあると考えている。

フジテレビに4000人が韓流抗議デモ
フジテレビが韓国の番組を多く放送するなど番組編成が偏向しているとして21日、東京・台場に約4000人(主催者発表)が集まり、抗議活動が行われた。放送局へのデモとしては異例の大規模なものとなった。抗議活動は7日にもあった。
一団はフジ本社周辺で「韓国の番組を放送するな」などと抗議の声を上げた。一時、街宣車も参加し、騒然となった。代表となった30代の男性会社員によると、今後はテレビ局を管轄する総務省への抗議活動も検討しているという。
2011年8月22日(スポーツ報知)

今回、フジテレビに対して行われた抗議行動とイギリスで起こった暴動を比較してみると、本質的に共通した部分を見出すことができるのだが、いかがお考えだろうか。
特に強く感じるのは、極めて合理性の低いその行動パターンだ。
例えば、前述したソニーの倉庫火災しかり、今回の抗議行動もフジテレビが、たまたま槍玉に上がったようにしか思えてならない。
仮に、偏向報道に対する抗議行動とするならば、他にも偏ったメディアはいくらもあるし、それこそ今に始まったことではないのだが、何故にフジテレビで、何故に今のタイミングなのか、偏向報道へ抗議するにしては、いささか説得力を欠いた行動にしか見えないのだ。
ちなみに、偏向報道という点では、NHKや大手新聞の方が明らかに客観性を欠いており、公共の利益に反していると当ブログでは思うのだが、いかがだろうか?

話を戻すと、今回の参加者の様子を見ていても、右翼団体から、嫌韓思しき人々、単なる物見遊山で加わった人々など、偏向報道そのもに抗議しているようには到底思えない流れが見て取れた。
つまりは、それぞれ動機の異なる人々が、ネットを介し、フジテレビへの抗議行動を目的化して集まったという点で、イギリスで起こった暴動と同じような背景を感じる取ることができるのだ。
断っておくが、暴動は反社会的なものであり決して許される行為では無いが、抗議活動は合法的に行えば、社会運動として認められている行為だ、即ちこれを同義に扱う意図は無いので、誤解なきよう願いたい。


当ブログとしても、ネットを介した新たな繋がりでもって、社会運動を起こすことそのものには、多いにシンパシーを感じるのだが、イギリスの暴動や、フジテレビのへの抗議行動に見られるように、一貫した主義主張もさして見当たらず、単に利害が合致しただけで決起したような行動には、正直、異を唱えざるを得ない。中東のジャスミン革命とは、その目的も手段も似て非なるの物なのだ。
結局のところ、それは本質的な問題を反ってうやむやにしたままに、デモ参加者が個々に抱える不満を一時的に発散することにしかなりえないのだ。
実際、今回の抗議行動は、世間一般に認知を促したり促されるような進展も無く終了したことから、まさに、お台場に集まって行進することのみが目的化された、主張乏しき抗議行動であったことの一端が垣間見える。
果たして、仮にフジテレビが韓流寄りの放送を止めたとすれば、彼らの目的は達成され、不満が解消されることになるのだろうか?
とても、そうは思えないのだが...

イギリスの暴動や、フジテレビの抗議行動を見るにつけ、何かと物事を単純化し、善悪二元論で考えようとする、若い世代の思考傾向の強まりを感じる次第だ。
これは、ひとえに教育問題と経済問題が大きく関わってくる話になると思うのだが、これ以上は、話が長くなるので、機会があれば項を改めたいと思う。
いずれにしろ、社会が成熟していく過程での出来事として、ポジティブに捉えていきたいところなのだが、その道のりは、まだまだ遠いと感じる今日この頃だ。
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